ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision なる番組を聞いている。Spotify 独占配信のポッドキャスト番組だ。
「飯、見せてもらえませんか?」の一言を刀の如く携えて、世界中のギャング、マフィア、少年兵、カルト教信者などの日常を描いたギャラクシー賞受賞番組、待望の国内シリーズ。「カメラがなければ世界のもっと奥まで行ける」を合言葉に、音声レコーダーによる突撃ロケを敢行。右翼団体、左翼団体、セックスワーカー、パパラッチ、特殊清掃員、夜逃げ屋、不良少年…。彼や彼女の飯を通して、その生き様を覗き込む。 世界中どこを探してもない「超没入型音声ドキュメンタリー」
番組名が長い。そして引用した紹介文だけでわかるいかにもヤバそうな番組だけれども、騙されたと思ってきいてみてほしい。僕は素晴らしい番組だと思う。
個人的おすすめ回
過去回も含めて全部聴いた*1ので、ひとまずおすすめ回を少し紹介する。
右翼左翼の飯
まずなんといっても、右翼の飯だ。
2020 年 8 月 15 日(終戦記念日)の靖国神社で、左翼団体の反天皇制運動連絡会(反天連)のデモに抗議していた、右翼団体のトップの70代の男性へのインタビュー。
ファミレスでまず語られるのは、ロシアの国旗を燃やして国際問題に発展しかけた話、鳩山由紀夫元首相の車を囲んだ話など過激な活動。しかし、話が男性の半生へと移ると、その生い立ち、右翼へと転身した経緯などこの活動に身を粉にするまでの複雑な人生が浮かび上がってくる。
そして「俺は死ぬその日まで右翼の前線で生きていこうと思っている」と、飄々と、しかし力強く語るその言葉。
その行動がなんであれ、死ぬまでの覚悟を決めた人の言葉がずっしりと心に響く。
福島飯
「復興って簡単に使ってるけど、意味わかってんのかって言いたくなる」
福島県富岡町で震災直後から避難せずに暮らす男性。町内は福島第一原発の爆発事故で避難指示が出され、電気もないような状態で彼はひとりで過ごしていた。
原発事故が起きた直後の鮎とかも食べていたから、被曝量はとんでもないことになっていると笑いながら話す言葉に、僕は言葉を失った。
自身の身体をかけてでもその場に残り、10 年以上被災地を見つめるその目で見てきたもの。語られる言葉の端々には強い想いが滲む。
障害者専門の風俗嬢の飯
全国に20店舗もないという、障害者専門の風俗店の話。
「(お客さんが)すごい笑顔で迎えてくれるんですよ」
「わたしが癒してあげないといけない立場なのに、わたしが癒やされて帰ってきちゃうみたいな」
普通の風俗店で元々働いていたが、ひょんなひらめきから障害者専門の風俗店へと転籍した女性。
うまく言葉を喋ることができない方、体を動かせない方、人工呼吸器を定期的にあてないといけない方など、人それぞれに対してケアやサポートをする体制。
このお店の風俗嬢の方からはこの仕事の楽しさやさまざまなエピソード、そしてなぜこの業界に入ることになったのかについて語られる。知っていそうで知らない、気づけそうで気づけない世界の話がここにある。
革命家飯
正式名称「革命的共産主義者同盟全国委員会」。通称「中核派」。
僕は個人の思想として、暴力を肯定する集団の一切合切すべての行動は肯定しないし関与しない。だから、あまりどういうインタビューなのか書きたくない。
だが、プロパガンダではない彼らの雑談、ディレクターと同じ風呂で交わす会話まで、初めて彼らを等身大の人間だと思えた気がする。
デスマスク飯
死者の顔をかたどり残す「デスマスク」。それを作る職人がいる。
新型コロナウィルスで 8 歳の息子を亡くしてしまった夫婦の依頼を受け、職人は型をとっていく。
デスマスクを受け取った依頼者の言葉に、最愛の人を亡くした悲しみに向き合うことの重さを改めて感じる。
そのほか
ここまでが、敢えて選ぶならば僕の個人的おすすめである。ほかにも
- 安楽死飯: 1 ヶ月後に死を迎える予定の方へのインタビュー
- イルカ漁飯: イルカ漁に反対するヴィーガンの方と、イルカ漁を実施している漁協の方や元漁師の方のインタビュー
- ヴィーガンの方の息子さんがお肉は食べたいけどイルカは可哀想だというのがまたリアルでいい
- 脱北飯: 20歳で北朝鮮に渡り、60歳で脱北をした女性の方へのインタビュー
- ヒッピー飯: 自由を求め、理想郷を作ろうとした男性へのインタビュー
などなど、盛り沢山。本当にどれも面白い。
おすすめポイント
おすすめエピソードは書いたので、次は僕がこの番組が好きな理由をこれから書く。
生き様を語る生の言葉
シンプルに、その人が生きてきた人生のその人が語っている言葉を聞く。これ以上の重い言葉はないだろうと思う。
この番組に出てくるどんな人も、どこか際立った過去を経ている。その過程を経たからこそ、重みを持って伝えられることがある。
名前も顔もわからない、きっと一生交わることのない相手の言葉に感激させられることがある。多くは 1 時間程度の番組なのだが、1 時間語らなければ伝わらないこともある。
個々人の生き様
この番組は禍々しいほどの現実を見せつけてくる。そもそもの「右翼左翼の飯」のロケ地である靖国神社では怒号も差別用語も飛び交うとんでもない音源だ。「広島のばっちゃん飯」では両親が刑務所にいたから小学生だけで生活してて、当時小五の兄がもやしを八百屋から万引きして生きてたなどと言う。
この世には一生想像をする機会さえない人生というのが存在する。ただ仕事をしてただ給料をもらって生活しているだけでは想像ができない日々がある。そんな当たり前のことを僕らはすぐに忘れる。
でもそれを、ものすごくストレートに思い出させてくれるのがこのドキュメンタリー、ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision なのだと思う。
終わりに
もう特に言うことはないので、この記事を読み終えたあなたは Sotify を起動して右翼左翼の飯をぜひ聞いてみてください。
*1:これは僕にとってはとても珍しいことだ。僕は基本的にそのポッドキャストを知ったタイミング以降の更新しか追わない。