Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

『そして二人だけになった』 -- 二人のニセモノの末路

読書録の付け方を変えることにしました。読んで気になった作品については 1 作ごとに感想を書いていくことにします。初回は、長編で不思議な香りのするお話、『そして二人だけになった』(森博嗣、新潮文庫)です。

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

そして二人だけになった―Until Death Do Us Part (新潮文庫)

  • 作者:森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/11/28
  • メディア: 文庫

あらすじ

全長 4000 メートルを超える大きな橋を支える巨大なコンクリートの塊*1、その内部に作られた「バルブ」と呼ばれる居住空間。それは核シェルターとして作った日本の最高機密(トップシークレット)だった。実験と称して、この橋と「バルブ」を作った 6 人がこの「バルブ」の中で共同生活を送ることになった。その 6 人とは、大学教授 4 名と天才数学者勅使河原潤、さらに彼のアシスタント森島有佳。

しかし勅使河原潤も森島有佳も実はホンモノではなく、それぞれの弟と妹が本人に頼まれ「バルブ」の中で代役として演技しているという状況だった。

しかし早くも二日目の段階で機器のトラブルにより海水に囲まれ、完全なる密室と化した「バルブ」。そんな状況で次々に起こる殺人*2。残されたニセモノ二人の運命は……

驚くべき結末

これはミステリィ*3なので結末を書くわけにはいかないんだけど。びっくりした。それなりに伏線は張られているし、何度も何度も重要でなさそうなことが書かれていたりするので、真面目に考えれば気づけそうだけど、でもかなり衝撃的。そして真相がわかったあともわかった気がしないし、なるほど古い作品かもしれないけど森博嗣のミステリィだという感じがある。

そして二人だけになったと結論はタイトルに書いてあるのに、それでも驚いた。

話が続きが気になってしょうがないし、コレを読んだ時久しぶりに一晩中本を読み続けてしまったヨ。

さまざまな言葉

各章の終わりに、物語とはあまり関係なさそうな勅使河原潤の言葉がいくつか書かれている。これは物語の何なのかを考えるべきなのかもしれないけど、僕はあまり考えていない。*4それより僕は、ここに書かれていることは単純に面白いと思うので紹介したい。たとえば、

「自分一人で生きていける人間なんていません。仕事をする、という行為自体が、そもそも他人に依存しています。経済的に自立している、という言葉もよく耳にしますけれど、定義の曖昧な概念というか、ほとんど妄想ですね。経済的に自立しようと思ったら、孤島で一人で暮らす以外にない。社会的な保障を受けることだって、施しの一種なのです。それに、自立なんて何の価値もありません。それとも、乞食のような自立を言っているのか、親から小遣いをもらう子供のような自立でしょうか? サラリーマンもまったく同じメカニズムですよ。そういう意味でしたら、主婦だって、会社の社長のように、旦那さんを働かせているわけですから、立派に自立していますね。とにかく、仕事をしていたら偉いんだ、という考えは時代遅れです。」

他にも多数。

ざっと総評

まぁ簡単にこんなところで。だって、この人の本、何を書いても魅力を伝えられないから「読んでね」と言うしかないんだもの(泣)。

僕がここに書けることは、それでも伝えられないなりに書くことで読んでみようかなと思ってくれる人が一人でも増えることを願うくらいです。

*1:アンカレイジというらしい。

*2:タイトルでわかるように、『そして誰もいなくなった』を連想させる。僕は読んでいないけど。

*3:森博嗣の本について書くときは実はわざとこう書いている。普段は僕はミステリーって書く。

*4:映画だとこういう作業はちゃんとやろうと思うのに、小説だとあまりやろうと思わない。自分でも不思議だ。