Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

新書: 『文系の壁』を読んだ

今日はなんとなく実家から歩いて10分くらいで行ける本屋でなんとなく本を見ていた。もちろん大学の本屋や図書館も利用できるし、都市圏まで行けば大型書店はあるのだけれど、地元の本屋がなんやかんや一番落ち着くのだ。多すぎない本の数は棚さしされて眠っている自分が読みたいものを探すにはちょうどいいボリュームで、どんな大型書店を知ってもとりあえず行ってみるのはその本屋だ。

その本屋で買った本はたいてい難しくなくてすぐ読めるものが多い。そもそも地方の書店に置いてあるような本であり、専門書でもなんでもない比較的読みやすく工夫された本を買うから当然なのだが。

さて、久しぶりに新書なるものを買ってみた。昔ほど知識を得るための「形式」にこだわらなくなり、専門書とか単行本とか岩波とか中公みたいなお堅い文章に限らず読んでいきたい所存だ。具体的には、今日はPHP新書と講談社現代新書と幻冬舎新書とイースト新書から1冊ずつ買った。ちなみに学部時代は岩波新書とか中公新書とかそんなのばかり買っていた*1。これはきっと『教養主義の没落』を読んでそうした過去の大学生像に憧れを抱き続けていたせいで、今は反省している。

さて、買ったのは次の4冊:

このうち一番先頭の『文系の壁』はとっとと読んでしまったので、少し思うところを書いておきたい。

この本について

『文系の壁』とかいう面倒なタイトルが付いている。文系とか理系とか言い出すとそれだけで記事ひとつ書けてしまうので細かいことは言わない。

だがこの本は決して文系向けでも理系向けでもない。スタンスとしては、文系出身者の読者に理系の人間はどのように感じ、どう考えているかの一端に触れてもらうのが主題の本のようだが、そもそも理系と言ってもいろいろある*2ので、一概に言えるわけがない。要するにこの本は養老先生とサイエンスに何らかの形で携わっている人が対談してどんな面白い話が聴けるのかという企画である。

僕なんかは数学ができるために日本では理系に分類されてしまうけれど、自己評価として僕は属するならば文系だと思っている。まず計算(機)が苦手だ。あと、数学以外のサイエンスには特にこだわりも知識もないし、そうした科学技術よりも人間がこれまでに作ってきた文化や芸術の行く末に興味がある。「現代」がどういう時代なのかは芸術作品や娯楽作品などを通じて表現されるし、そこから少し未来が見える気がするのが面白い*3。こうした活動はあくまでも趣味だと割りきっているのは過去に体系的な勉強もトレーニングも受けていないからで、そうした勉強ができるのであればやってみたいところだし、そうした勉強を経て「映画評論家」なんて肩書を名乗ってみたいと思わないではない。

話がそれた、『文系の壁』の話しに戻ろう。この本は養老先生とサイエンスに何らかの形で携わっている人が対談してどんな面白い話が聴けるのかという企画だと思えばいい。自分が文系だろうが理系だろうがそもそも養老先生がどちらにも属さないので考える必要はない。軽い気持ちで対談を楽しめばいい。

気になる対談相手は4人:

  • 森博嗣(研究者、小説家)
  • 藤井直敬(研究者、実業家)
  • 鈴木健(研究者、実業家、プログラマー)
  • 須田桃子(ジャーナリスト)

4人はそれぞれに「理系の顔」を持っている、ていうか全員理系修士以上を持っている。そんな人たちと養老先生との化学反応をご覧あれ。

雑感

一通り流し読みしただけでざっくりと「面白いなー」とは思ったが、そんなにまともな感想を書きたいわけではないので簡単に。

森博嗣

氏のエッセイとかを読んでいると「まぁいつもの内容かな」とも思う。そんなに取り立てて書くこともないけれど、養老先生がいるおかげで話が普段とは違う方向にも広がっているような。養老先生が「数学ができる=理系」の反例としてファラデー(19世紀の物理学者)を挙げているのが印象的だった。森氏はそれにあわせて実験科学には高度な数学が必要なく数学な苦手な学生には実験をやらせていたと。「ほーん、そうなのかー」などと思う。

文理の違いとか、「わかりません」の意味とか、前提を吟味しないとかわりと「言われてみるとたしかにそうだな」と思うことが多かった。

藤井直敬

スマホがVRスクリーンになるハコを開発した方らしい。研究者としてはサルを使って「社会性」を研究しているようだが、最近はVRの"副業"が面白いと述べられている。

ベンチャー企業の支援に対する文科省のやり方が的外れとの指摘、なるほど。既存の業界を守る支援と新しく業界を作る支援は全く違うので意味がないとの指摘。「目的に合わせた手段」を徹底的に考えること、脳の片隅に置いておこうと思う。

鈴木健

スマートニュースを作った人らしい。なぜかインストールしてあってたまに見るが積極利用はしていない。そういえばこのブログの休学記事がスマートニュースに載った人がいるみたいで、アクセスいくつかありましたね……

細胞の話が面白かった。人類は細胞についてかくも分かっていないものかと、大学の教養で思ったことをまた思った。そして生き物を使う、細胞を使うと再現性がないのは当たり前で、すべての細胞を同じ状態に管理できるわけがないから、と。有名な「羊のドリー」は約1,000回の実験で偶然に成功したレアケースだとの指摘も。

物理化学の実験ならば再現性をある程度は人力で担保できるが、生物分野では難しいということも。なるほどねぇ。

須田桃子

だいたいの話はSTAP細胞の話題。正直あまり興味がない。でも最後の方のお話が少し面白かった。

養老 科学に限らず、今の時代は煮詰まりやすいんです。頭で考えると煮詰まるから、感覚を開かないといけないんですけど、現代社会ではそれがなかなか難しい。建物の中では、朝から晩まで明かりは同じだし、気温は一定だし、風は吹かない。こんな世界に暮らしていたら、煮詰まるのも当たり前です。だからいつも「外へ行け」「田舎に行って、農業をやれ」って勧めているんだけど、「そうするとどうなりますか」って必ず聞かれる。

須田 どうなりますか(笑)

養老 どうなるか、予想ができるんだったら、やる必要ないんですよ。

今の僕もなかなか予想ができない生活をしているけれど、それでも毎日予想ができないことにワクワクしているので、やってみる意味があることなのかな、なんて、自意識過剰かしら。

文系の壁 理系の対話で人間社会をとらえ直す (PHP新書)

文系の壁 理系の対話で人間社会をとらえ直す (PHP新書)

  • 作者:養老 孟司
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/06/15
  • メディア: 新書

*1:そのくせあんまり読まなかった。

*2:本文中に養老先生自身がそう言っている。

*3:だから映画を見たり漫画を読んだりしているのだと言っても過言ではない。