Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

最小の体

最小の体という言葉

まず最小の体という言葉. たとえば, 有理数体 {\mathbb{Q}}{m } を平方因子をもたない {0} でない整数として, {\mathbb{Q}(\sqrt{m})}{\mathbb{Q}}{m } を含む最小の体とする,なんて次の本には書いてある.

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

素数と2次体の整数論 (数学のかんどころ 15)

  • 作者: 青木昇,飯高茂,中村滋,岡部恒治,桑田孝泰
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本
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じゃあ実際最小の体ってなんやねんていうとその本曰く,

即ち, {\mathbb{Q}(\sqrt{m})} は有理数と {\sqrt{m}} を用いて加減乗除で得られるすべての数の集合である.

とわかったようなわからんようなことを書いている. これを集合として書き下すのはなんか難しい.
ちなみに, 実際にはよく知られているように, {\mathbb{Q}(\sqrt{m}) = \{a+b\sqrt{m} \mid a, b\in\mathbb{Q}\}} となる. 環論的に(というより体の拡大の理論的に) この記事の終わりに略称を書いておいた(付録としておく).

最小の環

最小の体をいかに定義すべきかという問題に戻ろう. そのためにはまず最小の環を定義する必要がある. 環といえば単位的な可換環をさすものとする.

まず環 {R} に対して, {R} に何かしら元 {a} を添加して環を拡大することを考える. このとき,

{\begin{align}
R[a] = \{f(a) \mid f(X)\in R[X]\}
\end{align}
}と定義する. つまり {R[a]=\{c_na^n + c_{n-1}a^{n-1} + \cdots + c_0 \mid n \in \mathbb{N}, c_i\in R \}} である.
まず多項式環のように和と積を定義することで, {R[a]} は環になる. すると, {R[a]}{R}{a} を含む最小の環になる.

{R[a]}{R}{a} を含むことは明らかである. {R}{a} を含む任意の環 {R'} に対して, {R[a]\subset R'} を示せばよい.
{c_na^n+c_{n-1}a^{n-1}+\cdots + c_0\in R[a]} をとると, {f(X) = c_nX^n+c_{n-1}X^{n-1}+\cdots + c_0 \in R[X]} であり, これに {a} を代入すればよい. いま {a\in R'} なので, {a^m\in R'} だから, {f(a)\in R'} である. よって, {R[a]\subset R'}

そんなわけなので最小の環が構成できました.

最小の体

上の記号で {R} を整域とする. このとき, 商体が構成できる. これは {R} を含む最小の体である.

ここでとりあえず結論が出る. {\mathbb{Q}}{m } を含む最小の体は, {\mathbb{Q}[a]} の商体(有理関数体ともいう), が正確な答えであろう.
つまり,

{\begin{equation}
\mathbb{Q}(\sqrt{m}) = \left\{ \frac{f(\sqrt{m})}{g(\sqrt{m})} \mid f(X), g(X)\in\mathbb{Q}[X], g\neq 0 \right\}
\end{equation}
}
上記の本は入門書なので面倒臭がったのかなんなのか, ごまかして書いてあった. 本の趣旨としては間違っていない気がするが, こう認識しないで読むのは厳しい気もする.

ちなみにこの場合, 結論だけ言うと {\mathbb{Q}[\sqrt{m}] = \mathbb{Q}(\sqrt{m})} が言える. というよりは整拡大だから……なんて話もできるけど面白くはないのでやめておこう.

雑感

久々に環論をフルには使わない世界にやってきたのでなんか違和感ありまくりですね……ユークリッド整域なら P.I.D. とか明らかでしょとか思ったり思わなかったりしていますが. まぁ少しずつやっていきます.

付録

証明(少し省いた)

{\mathbb{Q}} 係数多項式 {X^2-m } が既約({m } が平方因子を持たないことから)なので, 既約多項式は極大イデアルであることと, 準同型定理とかを使えば

{\begin{equation}
\mathbb{Q}[X]/(X^2-m)\simeq Q(\sqrt{m})
\end{equation}
}となる. ここで, 一般に {f(X)\in K[X]}{K} 上のモニックな多項式なら, {K[X]/(f(X))} は次元が {\deg f}{K} 上のベクトル空間になり, 基底として {\{1, x, x^2,\dots, x^{(\deg f -1)}\}} がとれる. したがって, {\mathbb{Q}(\sqrt{m})}{\mathbb{Q}} 上二次元のベクトル空間で, 基底として {\{1, \sqrt{m}\}} がとれる.

参考

p228 の 補題8.2.1 を上の付録で使いました.

整数論1: 初等整数論からp進数へ

整数論1: 初等整数論からp進数へ