最近英語のニュース(主としてIT、ソフトウェア、プログラミング関係)に触れることが多いので、人々は興味なさそうだけど僕は興味がある、というニュースがちらほらある。今日はそんな話をする。
FSF、Forgeサイトを2020年内に開設へ
本家の声明記事はこれ。
現在の OSS 開発は非 OSS プラットフォームに依存している
昨今の OSS 開発は GitHub や GitLab1 のアカウントを作った人しか "事実上" 参加できなくなっている。「それでいいじゃないか?」と思われるかもしれないが、GitHub にも GitLab にも「利用規約に同意した」人しか使えないという制限がある2。GitHub や GitLab の利用規約に同意することができない人には "事実上" 開発や利用の参加を制限していることになる。
何を言っているのかわからない、という人もいるかもしれないが、実例を挙げるのはそれはそれでセンシティブなので挙げないでおく。
「俺達は GitHub で Cooooool な OSS を作ってるぜ!」とか言っていても、その発言は実は GitHub あるいは GitLab を利用していない/したくない/できない人たちを無視している宣言をしているわけだ。利用規約に同意できないなんて人はごく少数だと言われるかもしれないし、僕もきっとそう多くはないのではないかと思うが、サインアップもしていない以上規約に同意していない人を観測することは非常に難しいし、何よりそのごく少数をごく少数だからという理由で差別することが果たして倫理的に正しい態度だとは思えない。
また、米政府の要求によりGitHubはイラン、シリア、クリミアからの利用を制限することを余儀なくされている。実はちょっと大げさな表現をで、パブリックリポジトリの作成や OSS 開発自体への制限はされていない。しかし 政治的事情により機能制限がされている のは事実だ。この前例がある以上、米国と日本国の関係性がこじれれば、GitHub というサービスを日本で使えなくなる可能性は存在する。それは GitHub 社が望むか望まないかに関わらないからだ。
利便性 > 自由?
さて、ここまで述べた。いかにも筆者が OSS 開発はより開かれているプラットフォームにおいて行われるべきだと主張しそうな文章を書いた。でも正直なトコロ、そんなことは口が裂けても言えない。だって僕はソフトウェアを作ることで利益を得ている人の1人だ。結局僕も、人々も、開発者でさえも、「ソフトウェアが自由であること」にそこまでの価値を見出していないのだ。
そもそも、僕ははてなブログというサービスを使ってこの文章を書いている。はてなブログは当然営利企業の運営しているブログサービスで、ソースコードの公開さえなされていない。
みなさんがコミュニケーションをとっている Twitter/Facebook/Instagram/LINE その他SNSもほとんどは営利企業が運営している3。利用されているブラウザは Google Chrome が多いだろう。そのレンダリングエンジンの Blink などは OSS だが、Google Chrome 自体はそうではない。vscode は MIT ライセンスのもとで公開されている OSS であるが、 Visual Studio Code は(Microsoft のロゴなどが含まれる都合) OSS ではない。しかしそうしたことを日常的に区別している人が居るだろうか。ほとんどの人は興味がないだろうし、興味がある開発者でさえきっと少数派なように思う。
もちろん、一部の人は使うだろう。この世には GitHub にミラーリングこそされているが、実体は別の場所にホスティングされているリポジトリはたくさんある。例えば GCC、例えば unicorn などだ。なんなら Linux カーネルだってそうだ。こうした人は必要なら移行するかもしれない。
しかし、今 GitHub に十分満足している人が、GitHub がプロプライエタリであるからという理由で他のプラットフォームに移りたいと心から思うだろうか。それ以外の理由であっても、その選定先は FSF の Forge なるサイトだろうか。結局ほとんどの人は、理念や自由であることよりも、便利であることを望んでしまうのだ。倫理に訴えかけることは、あまりに無策だ。自由ソフトウェアであっても、利便性の高いものを作るしか道はないだろう。
終わりに
僕自身はこのプロジェクトに興味がある。これからも注目していきたいと思っているし、公開された場合にはサインアップもするだろう。
しかし同時に、GitHub/GitLab(/BitBucket)と同程度の認知を得るのは難しいのではないかと感じる。結局 OSS のユーザーはまず GitHub を確認するという習慣がついてしまった現代で、どれほどの存在感を発揮できうるだろう。
それも僕(1人のボランティアとして)の貢献度合いに依ると言われれば、それはそうなんだろうけどね。
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ここでは https://gitlab.com を念頭に置いている。とはいえ、オンプレ版でも有料版は存在するのでもはや GitLab とひと括りにした場合には自由ソフトウェアとはみなされないだろう。↩
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僕は普通に同意している。↩
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Mastdon は違うが、他に例を思いつかない。↩