AIは必ず世界を変える。
ただし、条件がある。「制約条件が複数方面で整ったとき」に普及する。
最近の僕はそう確信した。これが、2025年5月時点での僕の結論だ。
この記事はあくまで、いま僕がこんなことを考えている、というだけの記事だ。それがもし当たったのであればラッキーである。僕がもし外したら、至極当然のことである。
この記事では全体を通してAIという用語を使う。ここでいうAIは「LLMを基礎技術としたチャット型アシスタント」を主には念頭においている。しかし、こうしたアシスタントもイマドキはエージェント機能を有するなどしており、正直この区別が1年後に意味を持っているのかさえもはやわからない。
AIが社会を変える潜在力
AIで擬似的なコーチングの実践*1
このブログは常にSelf-containedではないので、コーチングとはなにかを知りたい人はこの記事を参照。
AIと1対1で、最近はいろいろなことを話している。特に、AIをコーチと思って話をする。
特に自己理解を深めることに最近は使っていた。なぜならば以下のような好条件が揃っているからだ。
- 忖度ゼロで話せる
- OpenAI(などのAIアシスタントプロバイダー)の利用規約とコンテンツポリシーに気を使う以外に気にすることはない
- 時間制限も回数制限もない
この条件をスマホの画面という仮想的な密室で揃えることができる。
なにを質問してもいい。なにを依頼してもいい。
あなたがそれをしたいなら、誰にも言ったことがない自分の秘密をそこでだけ告げてもいい。
自分でもわかっていない、自分に関する何かをただ思いつくままに投げみてもいい。
自己理解を進めたいというと会話が進んでいく。そして気がついたら、自分の大事な思想が言語化されている。
自分自身の理解を深めていく
僕の場合は、自分で自分を深掘りした。
AIが深掘りできるものは色々ある。なぜならばものすごく多くのことをAIは知っているからだ(この事実は僕がいまさら言うまでもないだろう)。
しかし、筆者自身についてはきっと筆者のほうが詳しい。AIに負けず劣らない知識を持つ人間として対話するのにこれほどうってつけのテーマはないだろう。
そこで自分をAIとの対話を通して深掘りした結果、自分のミッション・ビジョンを言語化した。
また、自分の行動原理、価値観などを以下のようなファイルにするのを手伝ってもらった(一部抜粋)。
このような営みは自分だけでやろうとしてもなかなかできなかっただろう。きっと、コーチをつけるとかして金銭的な支出だけでなく時間も短期間では済まないはずだ。
そして仮にコーチをつける金銭的余裕も時間的リソースもあったとして、たった1, 2週間で上記のようなアウトプットが出せただろうか?
そう考えると、AIコーチは 自分自身を自分で深められるのであれば 非常にコスパがいい。単に安く成果が出るだけでなく、かかる時間も短い。
AIならいつでもそこにいて話しかけて良い。30分おきに1回の対話のラリーが発生しても別に怪訝にも思わない。自分とAIで深められる自己理解の底であればたった数日で辿り着ける*2。
個人の行動変容から社会変革へ
社会を変えるプロダクトとはなにか。この答えは、人の行動を変えるプロダクトである。
僕のAIが社会を変えるという確信はここからきている。AIは僕自身の行動を変容させた。であれば、理論上全人類の行動を変える可能性がある。つまり、社会を変えられる発明であるということだ。
ミッションを決めるとか、自己理解を深められるなどということは、僕の人生の深部にアプローチするということだ。僕の人生の重要な意思決定にすでにAIが関与しているということである。
ということは、僕の行動が変わり、社会が何かしらの形で変わっていく。AIはすでに社会の変化を起こしているのだ。
AIが広く普及するための条件
AI活用における2つの重要事実
ここでN=1の視点から俯瞰して、ではAIが社会を実際に変えるためにはどうすればいいのか?を考えよう。
ここで既存のAI技術には2つの重要な事実がある。
- 汎用的であること、すなわち用途が限定されないこと
- AIとのインターフェースは自然言語であること
AIスキルの二極化問題
上記の2点から、重要な帰結が導かれる。
まず、人間の自然言語を扱う能力は母語であっても個人差が大きいことから、AIを使える人とAIを使えない人の格差は広がりやすい。おまけに汎用技術であることから、使える人はあらゆる領域でのアドバンテージを得て、使えない人はあらゆる領域でディスアドバンテージを得ることになる。
自然言語は万人が使うものだが、その運用能力には大きな差がある。自分の考えを明確に言語化し、AIに適切な指示を出せる人と、そうでない人の間には、得られる成果に雲泥の差が生まれる*3。
AIという強力な道具を前に、人間側のスキルが明暗を分ける状況は避けられない。
自分で言うのもなんだが、自分はおそらくAIを使うのが得意な方だ。なぜならば、自分の考えを言葉にして、明確にして、自分のコンテキストと相手のコンテキストの差分を把握して言い方を伝えるなどと言うことが日常的に訓練されている(リモートワークなどではこのスキルは必要不可欠である)。
だからこそ僕は思うのだ。AIの影響力はこんなものじゃないはずだと。
「できる」から「しなくてよい」へのパラダイムシフト
AIでできることを増やしている間はこの格差が広がるだけだ。つまり、自然言語運用能力の高い人間だけがAIの恩恵を受けていく。
これは社会の多くの人間の行動変容という観点からは全く足りていない。
本当に重要なのは「AIを使って何かをする」ためのツールではなく、言語化能力に関わらず「AIによって何かをしなくていい」状態を実現するシステム設計だ。
パワーユーザーではない大多数の人々がAIの恩恵を受けるには、明示的な指示を出さなくても機能する、プロセスに組み込まれたAIの活用が鍵となる。
参考: よい機能とは|yamotty
効果的な制約条件の設計
ここで最初のキーワードに帰ってくる。
AIは必ず世界を変える。
ただし、条件がある。「制約条件が複数方面で整ったとき」に普及する。
つまり、ChatGPTだろうがClaudeだろうがGeminiだろうがなんだろうが、そこに待っていてプロンプトを打たれるのを待っているのでは汎用的すぎる。
例えばPerplexityは検索の代替となる。雑談はできない*4が、検索をメインとしているという制約が、検索をしたいユーザーのコンテキストにハマりやすい。
他にも開発者向けのツールはわかりやすい。ChatGPTに自由なチャットをしながらコードを生成させるより、隣接ファイルをコンテキストとして渡してCopilot Agentに指示を出し、コードというアウトプットへの改善指示を出せる。これも、コードを書きたいという制約が、開発者のコンテキストにハマった使い方だ。
このような制約条件を複数の領域で作っていくことが、AIが普及していくということだ。
制約条件の具体例を探る
他にも自然言語などにコンテキストを含むデータを含むドメインであれば、あらゆる可能性がある。例えば、決済情報であるとか、法律文書であるとかだ。
さまざまな領域で適切な制約をつければ、コンテキストのインプットからの推論精度は非常に高い。問題は適切な制約と適切なコンテキストをAIに提供することが非常に難しい。現時点では属人的な、それもかなり得意な人が限られるスキルであるということだ。
この制約の付け方を発明することが、AI活用の次のステップになると僕は思っている。
なお、この記事は思考の途中経過であり、良い制約条件の例を自分も探している最中だ(現時点では全く思いついていない)。もし誰か効果的な例をご存知だったら教えて欲しい。
終わりに
思いの外長い記事になってしまったが、最近AIを使っていて考えたことの8割くらいを文書にしてみた。
AI技術の発展は凄まじいが、今の所その処理能力の本質はあまり変わっていない。AIがコンテキストを理解するかどうかだ。正確なコンテキストを与えられれば、論理的思考はできるしアウトプットも自然と意図通りのものになる。
コンテキストをどのように与えるか。あるいは考えうるコンテキストをどのように狭めるか。それがAI活用のキモではないかと思う。
*1:擬似的と呼んでいるのは、自分がやっていることが本当にコーチングと同じなのか確証がないからである。
*2:念の為書いておくけど、人間のコーチをつける意味がない、などとは全く思わない。AIにはAIのバイアスがあり、コーチにはコーチのバイアスがある。おそらく違う価値がもたらされるだろう。
*3:筆者はかつて2018年にSlackを使いながらこの指摘をした。が、AIでの現状を見ている限り、現状のテクノロジーの進化に楽観的な人ほど人の自然言語運用能力を過信しているように見受けられる。
*4:できるのかもしれないが知らない。