2020 年 2 月以来、僕は一度もライブに行っていなかった。
配信ライブを見たり、シアターライブを見たりはしていた。だけどライブには行っていなかった。
正直なところ、行く気になれなかったという側面はないわけではない。僕はパンデミックに適応しすぎている。仕事は家からしているし、電車にも乗らず生活圏は徒歩15分圏内で収まる。毎日の運動の習慣もあるし、他に何か要素がなくても幸福だった。
だけどなんの因果か、なんの気なしに応募したチケットがなぜか当たってしまい、僕はライブに来た。1 年ぶりに音楽を生で聴いた。
最初に思ったのは、あぁ音楽はこんな形をしていたんだったなぁ、ということだった。
僕の耳にうっとうしいイヤホンもヘッドホンもついてない(代わりにうっとうしいマスクはついているけど)。自分が見たいところを、見たい時に見たいだけ見られる。当たり前だと思うけれど、それがこの 1 年以上、当たり前じゃなかったんだ。
音が体に響く。音が心に響く。
まるで音楽を、一曲一曲を、手で触っているかのように感じた。どんな形かを感じていた。触り心地の良い曲もあるし、鋭利で痛い曲もあった。
むき出しの音楽がそこにあった。
もちろん、ストリーミングで聴ける音楽も素晴らしい。世界中の音楽を、自分が好きなタイミングで、自分の好きな分だけ届けてくれる。
だけど、それとは全く違う魅力がライブにはあるんだった。そう、ライブとはそういうものだった。あまりにも長い時間を空けていて完全に忘れてしまっていた。
僕はこの「音楽」が好きで、ライブに行っていたのだった。思い出した。思い出せた。
それだけで、今日という日はとても価値があった。