Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

ただただ、月を見ていた

月がきれいだった。

車通りの多い交差点、騒がしいパチンコ屋、閉店準備をしているケーキ屋、眩しい工事現場。それらを尻目に信号を待ちながら月を見ていた。目が離せなかった。

きれいなものを見ると不安になる。心がざわつく。でも、目が離せない。きれいなものをよりきれいにするのは難しいし、壊れたときに修繕するのも難しい。多くの場合、ほつれや綻びが生じたときには僕にはどうしようもなくなっている。でもきれいだからずっと見ていたい。そのままであってほしい。なくなってほしくない。

汚いもの、きれいでないものを見るのは別に辛くない。リビルドがリファクタリングかをすればいい。それは「やるか、やらないか」という二者択一だし、多くの場合そこまでして自分の手で変えたいと思わない。だから殆どの場合何もしないという意思決定だけをして終わる。たまに(例えば仕事とかで)向き合わないといけないだけだ。

きれいなものを見ることには体力を使う。ざわつく心を抑え、見守り、鑑賞することしか僕にはできない。目をそらすことさえ許されないような気がして。今日の僕は誰に強制されたわけでもないのにただただ月を見ていた。薄雲に覆われても輝く月を見ていた。

ずっと見ているわけにもいかない。息を吐いて、目をつむる。意識的に目線を下ろして、目を開けて現実に向き合う。

月を見ている間に信号は赤から青に変わっていた。横断歩道をわたり右折したら、建物に隠れて月は見えなくなった。

帰り道でも月を探したけど、厚い雲に覆われて見えなかった。見えなくてもいい、別に問題はない。だけど会えたはずの人に会えなかったときのような気持ちになって、やっぱり心がざわついた。