そんな余裕はないはずなのに読書をしていたのでそんな余裕はないはずなのに感想を簡単に残す.
【φは壊れたね (講談社文庫)/森 博嗣】みんなが面白くないというが、普通に面白いのでは。確かに興奮するような読後感はないにせよ、\"いつもの作品\"でなく、また新しい何かが始まることを予期させるなか... →https://t.co/TEHEPty5jg #bookmeter
— 八神コウ (@515hikaru) January 9, 2016
φ は壊れたね
今までのどの森作品とも似ていない.
僕が最初に抱いた感想である. だいたい作家っていうのは面白い作品は面白いし似通っていて, 面白くない作品はなんかこの作家らしくない作品だとか思ったり言われたりするものである*1. しかし, この作品は今までの森作品のどれとも似ていない, いやどれとも本質的に違う, 少し異様な雰囲気を醸し出している.
起きたのは殺人, いや密室殺人事件である. しかしこの本が描くのは西之園萌絵による事件解決までのストーリィでもなく, 真相(と多くの人が思うもの)に至るまでの観察と議論と計算でもない. 念の為言っておくと, 事件は解決する. しかし, 作者はもしかしたら真相, この事件の "答え" を明かしたくないのではないかとさえ思う.
思えば, それは至極当然のことで, 事件に答えなど本来はないからだ. そもそも事件に謎も問題もない. あるのは人間(小説の中での話に限定すれば, 登場人物といってもよい)の主観に基づいた観察と結果があるだけで, 客観的事実などはそれこそ神のみぞ知るものだ. 観察と結果の積み重ねが, 真相と人々が呼ぶ何かを見せるに過ぎない.
私もそうだったが, この本を読めば思うだろう.
- 「なぜこんなことをしたのか」 「なぜこの事件は起きたのか」
その答えは書いていない. それがこの小説の答えなのだ.
人間は経過や結果の観察により答えにたどり着くが, たとえば人間の感情, 思想, 思考の答えを, その一例さえも明示的には描かなかった. 私が知る限りそれが新しい森博嗣の小説だったのだろう*2.
真相に辿りつけないミステリィ, それは娯楽小説を書くのをやめ, 真相(と作家が信じているもの)を書き始めたのかもしれない.