Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

近世数学史談によせて, 雑感

高木貞治先生の著作, 『近世数学史談』 を読んだ.

近世数学史談 (岩波文庫)

近世数学史談 (岩波文庫)

  • 作者:高木 貞治
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1995/08/18
  • メディア: 文庫

これは面白い本であったがいささか著者特有の冗長さ*1というか, そういうものもあって少し読みにくい.
先に断っておくが, この本は数学の歴史について語られているが数学史の本ではない. エッセイである. まぁ単純に面白いが, 著者の主観が(あえてだと思うが)多分に含まれているので, 歴史の本として読むには客観性が足りない. しかし別に高木先生も歴史の話がしたかったのではないだろうから, 面白いなと思ったことを面白く読めばいい. 肩を張って読む本ではない.

個人的には, 高木先生の学生時代と, Hilbert に会った時の話が印象に残っている.

戦争により外国から本が来なくなるなどと書いてあるけれど, 当時はそれが当たり前だとしても平和が始まって長いこの国においてはつい忘れがちである. そしてそんな時期に高木先生はいわゆる「類体論」を証明したわけだが, ご本人は, 本がない刺激があったからこそ何かをなせたのだと思う(大意)と述べているし, 戦争により高木貞治という人が世界的な仕事をなしたのかもしれないなどと思うと, 不思議な感じもしてくる.

しかし, この小さな文庫本で, 不完全性定理が証明された 1 年後の Hilbert の言葉を生で聞いたエピソードを母国語で読める日本人は幸福だろう. この本を読まれるなら杉浦光夫先生の解説まで余すところなきよう, すべて読まれるよう勧めたい.
5 年のちくらいにまた読みたい.

*1:数学書を読んでいても感じられる独特な何かがある.