Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

Math Advent Calendar 25 日目: お祭りの終わりにただの問題

こんにちは, この記事は Math Advent Calendar の最終日の記事です.

www.adventar.org

終わりです.

といって終わってもいいんですけど, 最後なのでがんばります. 今日は初等的な話をします.

問題

自分でもよく忘れるんですが, 実は私は整数論を専攻している学生であったりします. なので, 今日はその話をします.

方程式

{\begin{equation}
 3X^2 + 5Y^2 - 7Z^2 =0
\end{equation}}

{(X, Y, Z) = (0, 0, 0)} とは異なる整数解が存在しないことを示せ.

出典は斎藤秀司先生の, 『整数論』(共立講座21世紀の数学, 1997)の問7.3(p145)です.

共立講座21世紀の数学 (20)  整数論

共立講座21世紀の数学 (20) 整数論

  • 作者:斎藤 秀司
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 1997/05/01
  • メディア: 単行本

この問題は実は(わりと)初等的にわかります.

なんか最近, この Advent Calendar にも参加されていた tsujimotter さんがこんな記事を書かれてましたが, 実はこの記事の内容とも関係が少しだけありますね. ケリをつけるところで平方剰余理論を使います.

tsujimotter.hatenablog.com

注意と記号

私がセミナーで聞いた解答なので, 私自身によるものではないことを先に断っておきます.

{\mathbb{Z}} を整数全体の集合*1とし, {x \in\mathbb{Z}} に対し {x \bmod 3} を説明しようと思ったけど面倒なので伝わってください(伝わらない人は, {x \equiv y \bmod 3} となる {y} たちを全部同一視してひとつの元だと思ったもの, もっと言えば {x}{3} で割ったあまりだと思ってください.)

解答

いま, {(0, 0, 0)} とは異なる解 {(x, y, z)} ({x, y, z \in \mathbb{Z}}) が存在したとする. これらを全て {\bmod\ 3} して, {(x \bmod 3, y \bmod 3, z\bmod 3) \neq (0, 0, 0)} としてよい(互いに素でないならば共通因子は最初から割っておけば良い).

まず, {(y \bmod 3, z \bmod 3) \neq (0, 0)} である. なぜならば, もし {y}{z}{3} の倍数ならば, {x} もそうでなければならない({3x^2=-5y^2+7z^2}{y, z}{3} の倍数を入れれば, 右辺は {9} の倍数になるので {x}{3} の倍数になることが必要). これは仮定{(x \bmod 3, y \bmod 3, z\bmod 3) \neq (0, 0, 0)} に反する.

そこで, {(y \bmod 3,  z\bmod 3) \neq (0, 0)} とする.このとき, 二次形式 {3x^2 + 5y^2 - 7z^2 = 0}{\bmod 3} で考えると, {-y^2-z^2 \equiv 0 \pmod 3} ({\bmod 3} では {2 = -1} である.)なる式が得られる.

ところが, {\bmod 3} では {\displaystyle\left(\frac{-1}{3}\right) = -1}(平方剰余(Legendre)記号!!) であるので, {y^2 \equiv -z^2 \pmod 3} であるためには {y \bmod 3 = z\bmod3 = 0} が必要. しかしこれは起きないことが前段で示されている.

よって, {(0, 0, 0)} 以外の整数解は存在しない. 証明終.

背景を解説するには僕の知識が足りなすぎる.

実はここで {3} に着目するのって明白な理由があるのですが, それを解説するためには実はこの二次形式の背後にある原理の話をしなくてはいけない気がします. でも正直あんまり書きたくありません(時間の都合とか自分の知識量の問題とか).

ここではキーワードだけ挙げておくにとどめておきます.

  • {p} 進数体
  • Hilbert 記号
  • 局所大域原理(Hasse-Minkowski の定理)

僕もまだ勉強中ですので, 正直なトコロあまり書きたくありません.これらのことがわかれば, 上の議論はなぜ {3} に着目したのかがわかります.

ちなみに, 上の二次形式に限らず, 一般に, {A, B, C} をそれぞれが {0} でない整数で, どのふたつをとっても互いに素な, 平方因子をもたないものとすると,

{\begin{equation}
AX^2 + BY^2 +CZ^2 = 0
\end{equation}
}

{(0, 0, 0)} と異なる整数解をもつか否かが完全に判定できます(Legendre の定理). まぁここには書きません.

こうしたことは全部上の問題の出典の本に書いてあります.

その他参考文献

むしろ他におすすめがあれば教えてください.

数論講義(A Course in Arithmetic)

言わずとしれた Serre の名著. 僕の数論の記事にはほぼ毎回登場していると言っても過言ではない. {p} 進数の導入から二次形式の話など古典的で重要な話題がある. 他にも Dirichlet の算術級数定理の完全な証明(素数の密度に関する記述も含め)が(英語版だと) 15p で収まっていたり, いろいろと凄い本. この本の平方剰余の相互法則の証明は一読の価値があると思う.

数論講義

数論講義

  • 作者:J.P.セール
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2002/06/10
  • メディア: 単行本

A Course in Arithmetic (Graduate Texts in Mathematics)

A Course in Arithmetic (Graduate Texts in Mathematics)

  • 作者:J-P. Serre
  • 出版社/メーカー: Springer
  • 発売日: 1973/06/18
  • メディア: ペーパーバック

『初等整数論講義』

これもまた名著(でもそんなに読んでない). おそらく多くの日本人が書いた初等整数論の本はこれを参考文献に挙げていると思う.

初等整数論講義 第2版

初等整数論講義 第2版

  • 作者:高木 貞治
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 1971/10/15
  • メディア: 単行本

おわりに

さて, Math Advent Calendar, なんとか終わりました. うん, なんとか, 終わった.

私自身今後特に催促をすることとかはしませんが, もし今回投稿しそびれてしまった方, お時間のあるときにでも登録しておいていただけると僕は嬉しいです(もちろん無理強いはしません, ただのお祭りなので).

今回のカレンダーでは数学科の大学生を始め, 社会人の方, 物理っぽい話題を提供してくれた方, プログラマーの方など幅広い層の方に参加していただきまして, ありがとうございました. 最初作った時はどうなることやらと思いましたが, 結構みなさん面白い話題を提供してくれまして僕も勉強になりました. 来年もまた似たようなことをするかもしれません(しないかもしれません).

では最後に, メリークリスマス! そして良いお年をお迎えください.

*1:特に意見は寄せられなかったけど前の記事で一般向けと言っておきながらこういう記号の説明をしておくのすっかり忘れていて反省した. 空気のように使うのでつい説明を忘れてしまう.