Diary over Finite Fields

515ひかるの日記と雑文

アンナ・カレーニナ感想

幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。 『アンナ・カレーニナ 上』(トルストイ 岩波文庫 1989)

本日, 映画 「アンナ・カレーニナ」 を鑑賞した. 原作は上の一文から始まるトルストイの傑作長編である.

アンナ・カレーニナ [DVD]

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これまた私は原作を邦訳で読んだことがあり, 話は知っていたのだが十分に楽しめた. ちょっと気合を入れて綴ろうと思う. なお, 私が見たのは 2012 年 (日本公開は 2013 年) のイギリス映画である. 演者の発話も作中で使われる小道具も基本英語であった.

あらすじ

舞台は 19 世紀半ばのロシア. アンナ・カレーニナ (キーラ・ナイトレイ) は政府の高官, アレクセイ・カレーニン (ジュード・ロウ) の妻であり. その美貌からペテルブルクの社交界の花とも呼ばれていた. 物語は, アンナが兄夫婦, ステパン・オブロンスキー (マシュー・マクファディン) とドリー・オブロンスカヤ (ケリー・マクドナルド) の諍いの仲裁のためモスクワに来るところから始まる. モスクワの駅で母を迎えに来ていたアレクセイ・ヴロンスキー (アーロン・テイラー=ジョンソン) と出会う. ヴロンスキーはキティ (アリシア・ヴィキャンデル) という女性と婚約状態にあった. (実際, それで コンスタンティン・リョーヴィン( ドーナル・グリーソン) からの結婚の申し込みを一度断る) しかし, アンナとヴロンスキーは惹かれ合ってしまい, 不倫の仲へと発展していく. アンナとヴロンスキー, カレーニンの三角関係に主眼を置きながら, さまざまな 愛の形 を描いたトルストイの傑作長編の映画化である.

感想

言うことがない. 久々に良い映画をみた. 原作を読まれた方もそうでない方も一度観ていただきたい, そんな気持ちでいっぱいだ. 私は原作を知っているのでちょっと細かい指摘を後でしたいと思うが, はっきり言って野暮だ. この映画は, 日本語で 3 分冊にもわたる傑作長編をみごとに映画として作り上げ, 完成させている. 素晴らしい. ポイントは次の 2 つだ.

  • 原作からのテーマの抽出: 愛
  • 映画という枠組みにとらわれず, 舞台を構築したこと

前者はストーリーの質を高め, 後者がこの映画の魅力を引き上げている.

主人公アンナ

この作品の魅力のひとつは, おそらくアンナという人そのものにあると思う. 美貌もさることながら, その素直さ, 純粋さ, 腹黒さ, 何をとってもなぜか他者を惹きつける. それが不思議で, 見ていてヒヤヒヤして, いつの間にか彼女に感情移入している. 不思議な人だし, その不思議な人を見事に演じている.

舞台

舞台が非常に凝っているのでこれについて言及せねばなるまい. 実は今作は映画なのだけれど, 舞台があってそこで場転を繰り返すという形式になっている. これが実はものすごく効果的で, ある種の "自由" あるいは "自然" を作ることに成功している. たとえば, 舞踏会でヴロンスキーとアンナが社交ダンスをするシーン. 一度舞台から人が去るのだが, もし "通常" の映画であれば人が消えるのは (演出によるが, 下手にやると) 不自然である. ところが, この作品は舞台なので, 舞台上の演出として "二人の世界", "周りの目を忘れ惹かれ合う 2 人" を演出になっている. 他にも, モスクワやペテルブルク, さらには田舎のリョービンの家など, めまぐるしく舞台が変わるが, それらは例えば "扉" を開けることや, 暗転するなど舞台の手法で場面転換がなされる. これは本当に効果的で, 見ていて全くストレスがない. 舞台の混乱が, いま彼らがどこにいて何をしているのかを全く混乱しないのだ. これは革命的な演出だと思う.

リョーヴィン

あえて苦言を呈したい. リョービンだ. 原作と比較するのは基本的に好きではないのだが, どうしてもこれは書いておきたい. 原作では リョービンが主人公なのだ, と. 確かに映画にするにはアンナの魅力, 美貌, また三角関係など主眼をアンナにあてたほうが物語にはなる. しかし主人公は彼女ではない, ましてその相手のヴロンスキーでもカレーニンでもない. 実は脇役かのようなリョービンが主人公なのだ. これは原作を読まないとわからないと思うのでこれ以上言及しないが, ちょっとリョービンの扱いが残念だった. しかしそれ以外については本当に満足している.

総評

ぜひ見たほうがいい. 断言する. ここまでダラダラ書いてきたが, もし拙文で少しでも興味を持った方はぜひ観ていただきたい. 原作を読んでないと難しいかもしれないが, この古典的名作に, アンナという人に, リョービンの人柄に, 自由な舞台に, 魅了されてほしい.

今週は 「レ・ミゼラブル」 と 「最後のマイ・ウェイ」 を借りてきたので 8/4 までに観ます.

アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫)

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アンナ・カレーニナ〈中〉 (新潮文庫)

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アンナ・カレーニナ〈下〉 (新潮文庫)

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